代役屋




とある芸能事務所のとあるレッスンルームにはロングヘアーの大人びた雰囲気を持つ少女とショートボブの銀髪の二人の少女がいた.
この二人は最近売れ出したペアユニットであり,数日後におこなわれる大きなライブイベントのレッスンをおこなっていた.
本番前の練習ということで本番で着る衣装を使用してのレッスンであった.

大きく背中が開かれた水色のドレス衣装であり,激しいレッスンの後で汗が背中を流れていった.







「アーニャちゃん,用事があるから先に帰るね」

「Даー,美波おつかれさまです」


ロングヘアーの少女――新田美波は,ペアであるアナスタシアに声をかけて一足先に部屋を出て行った.
残ったアナスタシアは数分間レッスン中の動作を思い出す様に姿見の前で動作を繰り返していた.

「…そろそろいいか」

急に雰囲気の変わったアナスタシアはレッスンルームの扉に近づくと鍵をかけた.
鍵のかかったレッスンルームの中にはアナスタシア以外の人物は誰もおらず監視カメラもない

アナスタシアは姿見の前まで戻り,自分の姿を見る.
激しいレッスンの後で少し汗を感じるが,美しさは損なわれていない.

「さて...」

ショートボブの銀髪もロングヘアーの栗色へと変わる.伸びた髪の毛が晒された背中に当たりくすぐったく感じられる
体格は大きく変わらないため着ている衣装には違和感は感じられない.

目の前にある姿見には先ほど部屋を出て行った新田美波の姿があった.
喉に手を当て声の調子を整え

「ここからは私の出番だからね.アーニャちゃん」

口から出る声も落ち着いた声に変っており,大人びた印象を感じさせる.

姿見で自分の姿を確認する美波は満足がいったのか衣装を整え扉の鍵を開け部屋を出ていく,通路ですれ違う事務員などに
普段通りの挨拶を交わしプロデューサーの部屋へ向かっていく.

「どうかしましたか美波ちゃん?」

プロデューサーの部屋の前で蛍光グリーンの事務服を着た事務員である千川ちひろが声をかけてきた.

「お疲れ様ですちひろさん.プロデューサーさんは部屋の中に居られますか?」

「プロデューサーさんでしたら部屋の中で誰かを待っているようでしたよ.今度のライブイベントの打ち合わせがあるみたいですね」

「ありがとうございますちひろさん」

美波はちひろに会釈をしプロデューサーの部屋をノックし部屋の中へ入っていった.





最近売れ出しのペアユニットの担当であるプロデューサーは自分の机に置かれた書類を険しい顔で見ていた.
書類上には近々行われるライブイベントに関わる人物達の名前が書かれている.

「うーん...」

プロデューサーが険しい顔で見ている名前の人物は業界内で大きな権力を持ち,気に入られれば成功が約束されると噂されている.
この人物はライブイベント前には気になるアイドルとの自宅パーティを行うことが多く,今回はプロデューサーが担当しているペアユニットに対して招待が
きている.
自宅パーティとは呼んでいるが実際行われているのは枕営業である.この事は暗黙のルールとして誰も表立って口に出さない.学校の七不思議や都市伝説みたいな
ものとして語られている噂である.

「この人悪い噂しか聞かないから断りたいけど,断ったら何をされるか...」

断りでもすればすぐさま圧力がかかり,担当している二人の将来に影を落とすことは間違いない.
権力を持たないプロデューサーは歯がゆい思いで書類を見ていた.

まだ若い二人にそのようなことをさせたくないプロデューサーは先輩プロデューサーに相談すると一つの噂を聞いた.

『アイドルを守るためにアイドルの代役を立てる...代役屋と呼ばれる存在がいる』

詳しい話を聞くとプロデューサー間だけに伝わる噂であり,このメールに相談をすると日時場所が書かれた返信がくる.
半信半疑で相談してみたところ,日時とプロデューサーの部屋と書かれた返信がきた.

「そろそろ時間になるはずだが...」

時計を見ると針は指定された時間を示そうとしている.プロデューサーは部屋の中を見渡し誰も居ないことを確認すると自嘲気味に笑った.

「先輩に騙されたのか...そんな都合の良い話なんてあるはずないしな...」

その時,プロデューサーの部屋の扉がノックされ扉が開いた.

「プロデューサーさんお待たせしました」

部屋に入ってきたのは先ほどまでレッスンを行っていた新田美波であった.激しいレッスンだったのか衣装には少し汗を感じられる.

「レッスンお疲れ様」

「お疲れ様ですプロデューサーさん」

プロデューサーは期待していた人物とは違ったため少し落胆した様子を見せたが,机の書類を引き出しの中にしまう.

「今日はレッスンで最後だったはずだけど何かあったのか?」

「えーっとですね,ちょっとプロデューサーさんに用事がありまして時間ありますか?」

プロデューサーが時計を見ると,指定された時間は過ぎていた.この後は予定は何も入っていない.

「ああ、お客さんがくるはずだったがちょっと都合が悪かったみたいでな.大丈夫だぞ」

「誰にも聞かれたくない話なんですが...」

そう言って美波は扉に鍵をかけると,プロデューサーの傍に歩いてくる.歩くたびにロングヘアーの髪が晒された背中の上を揺れている.
深刻な相談なのだろうか,少し陰りのある表情からプロデューサーは気を引き締めた.

「もしかして次のライブイベントの事か?美波達は十分実力もあるし不安に思うことはないぞ」

「ライブイベントなんですが実は...」

美波が話したことは先ほどからプロデューサーが悩んでいる人物についてであった.美波が知るはずもない事を話してきたことでプロデューサーは言葉を失った.

「そ,そのことについてだが...」

「ええ,そのために私に相談をしたのでしょう」

言い淀んだプロデューサーの声を遮るように美波の落ち着いた声が響く.
その瞬間,いつも聞いている落ち着いた大人びた声であったがプロデューサーは違和感を感じた.

目の前にいる人物は自分が知っている少女ではなく別人ではないかと感じさせるほど雰囲気が変わった.

「み、美波?」

「この業界はこのような相談がよく来ます,あなたも噂を信じるほどには追い込まれているみたいですね」

やれやれといった感じで目の前の人物はこちらを見てくる.自分が普段接している少女と姿は変わらないが雰囲気が違うことに頭が追い付かない
プロデューサーに対して悪戯顔で人物は落ち着いた声で語る.

「アイドルに"変わって"トラブルを解決する存在が私です,貴方.」

話している最中に目の前の人物は,ロングヘアーの大人びた少女からショートボブの銀髪の少女へと変わっていった.

目の前で起きた出来事に頭の処理が追い付かないプロデューサーを悪戯が成功したような顔で見ているのはこの部屋には居なかったアナスタシアだった.



「プロデューサー?」

固まっているプロデューサーの顔を覗き込むのは普段接しているアナスタシアにしか見えない.漂ってくる甘い香りも普段感じているアナスタシアのものである.

「...ドッキリか?」

「Нет,プロデューサーの固まった顔を見るのは面白いですがそろそろ話しを進めますね.プロデューサーが懸念していることは自分が担当しているアイドルに
辛いことをさせてしまう事ですね.」

「...ええその通りです」

「そこで,私がアイドルの代役としてパーティに行かせてもらいます...もちろんお値段はお高いですが」

改めて目の前のアナスタシアを見ると,雰囲気は別人だが身長,体格など普段と変わらない.
プロデューサーの視線を感じたのか,悪戯顔になったアナスタシアはその場でポーズを取る.

「どうです?身長も体重...もちろんスリーサイズも本人と変わりませんよ.どうしても確かめたいのなら...」

アナスタシアはプロデューサーの手を取り胸に引き寄せる.

「Ладно...良いですよ」

「ちょ、ちょっと待て!」

「...もしかして,美波の方が好みでした?」

話している途中で声が変わり,プロデューサーの手には先ほどより少し大きくなった胸の感触が感じられた.

「良いんですよプロデューサーさん...プロデューサーさんが納得いくまで美波の胸を揉んでも...」

脳が蕩けそうになり本能のまま手を動かす.

「んっ...」

普段真面目な美波からは想像できない声にプロデューサーは更に手を動かす.衣装をずらし直に胸に手を当てる.

「あっ...胸でも十分感じる...この身体は当たりだな」

美波が何かを言っているが,美波の胸に夢中なプロデューサーの耳には入っていなかった.

「お楽しみのところ残念ですが,そろそろお暇しますね」

「あっ,ああ...」

「信じてもらえたでしょうし,今度のパーティは任せてください.お金は後日改めてお支払いということで」

ずれた衣装を戻した美波はプロデューサーから離れ,扉へ歩いていく.後ろから見える背中に手を伸ばすが触れるかと思った瞬間振り返った美波は頬を赤く染め

「この続きはまた今度.プロデューサーさんが私を見つけられたらね.」

悪戯顔を浮かべた美波は鍵を開け部屋を出ていく.プロデューサーは手を伸ばしたまま固まっていた.






数日後,自宅パーティは無事に終わり,ライブイベントは大盛況だった.ペアユニットの人気が出るにつれプロデューサーの仕事は増えたが
プロデューサーはより仕事に熱中し,次の仕事の打ち合わせに向かっていった.

「打ち合わせはこの角を曲がった部屋だったか...」

打ち合わせの書類を抱え角を曲がると,向こう側から歩いてきた少女とぶつかってしまった.

「だ、大丈夫か!?」

「だっ大丈夫です!」

尻もちをついた少女に手を伸ばすと,少女は同じ芸能事務所に所属するアイドル_小日向美穂だった.
謝罪を繰り返し,その場を後にしようとしたがふと美穂に対して何かを感じたプロデューサーは振り返り再度声をかけようとする.

「あ、あのもしかして...」

その言葉の続きは,美穂の口元に当てられたバッテンポーズに飲み込まれた.

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コメント

非公開コメント

No title

とても良かった!初めてとは思えないですね!

しかし見抜くプロデューサーすごすぎw