代役屋-おまけ


とある芸能事務所の女子トイレには双葉杏の姿があった.
少し大きめの文字が書かれたTシャツ,ボーダー柄のスパッツと事務所での彼女の服装である.彼女のトレードマークであるうさぎのぬいぐるみの代わりに大きなかばんを抱えている.


鏡の前に立った彼女は何かを確かめるように鏡を覗いていた.最初は自分の服装を見ていただけだが次第に手で触るようになっていった.
比較的に小柄な少女である杏は小さな手で胸や腰を触り,赤い紐で括られたおさげを整えていた.
Tシャツの首の部分を引っ張り中を見る.中には小ぶりながらも存在を主張する胸が見えた.

「意外と胸はあるんだよね」

視線を鏡に戻すとにやけ顔でTシャツを引っ張っている自分の姿があった.Tシャツから手を放すと口元に手を当て
彼女がよくする可愛らしいドヤ顔や笑顔など魅力ある表情を浮かべている.

「...やっぱり俺の能力は完璧だな」

この双葉杏は本物の双葉杏ではなく,性別すら違う男性が変身している偽物の双葉杏であった.
偽物には自分が見たことのある人物に肉体を変えることのできる能力があり,本物の双葉杏を担当しているプロデューサーから
依頼があったため代役として双葉杏になり活動していた.この芸能事務所ではこういった依頼が多く,事情を知っている人物は
極少数である.そのため,ドッペルゲンガーが出るなどの怪談じみた噂がアイドルの中で流行っている.
その噂を実際に聞いたのは神崎蘭子に変身してアイドルの会話の中に入っていた時だった.ホラー系が苦手である蘭子のリアクションを取った際,心の中で正体は自分だと笑っていたのは余談である.

「そろそろ次の準備をするか」

ポツリとつぶやいた杏はかばんを持ち個室の中へ入る.

個室の中へ入るとかばんから小さな鏡を取り出し,着ている服を脱ぎ全裸になる.
全裸になったことで少し寒くなったのか身震いをした杏は目を閉じ何かを考える.

すると,139cmしかなかった杏の身長がだんだんと伸びてくる.それと同時に髪の毛は短くなり,髪の色も金髪から銀髪へと変わる.
小ぶりな胸も大きくなり,大きくなった反動で少し揺れる.
変化が終わると個室の中にいた杏はいなくなり,代わりにアナスタシアがそこにいた.

アナスタシアは鏡で確認をするとカバンの中に入っていた服を取り出した.
先ほどとは変わり,サイズの変わった下着や服を身に着けていく.最期にネックレスを身に着け,鏡で違和感の無いことを確認すると
個室から外に出た.

「あれ?アーニャちゃん」

「Даー,美波.奇遇ですね」

個室から出るとアナスタシアとペアユニットを組んでいる新田美波が鏡の前で身だしなみを整えていた.
アナスタシアは美波の隣に行くとかばんの中から道具を取り出し身だしなみを整える.

「アーニャちゃんどうしたの?大きなかばんを持って」

「あー,この間の収録でプロデューサーに持っていくものです」

納得がいったのか身だしなみを整えた美波は先にトイレの外で待っていると告げ出て行った.
改めて鏡を見ると双葉杏の面影は一切なく,ペアユニットである美波が隣で見ても別人であるとは気づかないほど完璧にアナスタシアになっていた.
美波が気づかなかったことで気分を良くしたアナスタシアはかばんの中に道具を戻し,かばんの中の杏の服を見る.

「杏,ここからはアーニャが杏の代わりに働きますね」

悪戯顔をしたアナスタシアはかばんを閉じ,美波の元へと向かった.

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