隠れ家-その1


「放課後になりました.生徒の皆さんは速やかに下校をしてください」

放送委員の女子生徒の放送が放課後の校舎に響いている.僕はその放送を聞きながらケータイに届いたメールを見直した.

『裕司君へ 放課後,図書室で本を返しに行くから遅くなります.』

控えめで恥ずかしがり屋な性格をしている幼馴染である彼女の下へ僕は向かっていた.

平日の放課後の校舎であるにも関わらず人気のない廊下は普段とは違った雰囲気が感じられる.

この学校のある市で凶悪犯罪者が脱走したため全部活動は中止となり,生徒達は複数人で帰宅をすることになっている.

図書室の前に着き扉に手をかける.扉には『図書室では静かに』と書かれたポスターが貼ってあり,僕は音を立てない様にそっと扉を開けた.

図書室の中は静まり返っており入口から部屋の中を見回してみると誰も居なかった.
『…あれ?入れ違いにでもなったか?』

ケータイを改めて見直すがさっきのメールから何も届いていない.
他の場所を探してみるかと思った瞬間,不思議と図書室の奥にある本棚から目が離せなかった.
入口から離れた奥の方にはいくつもの本棚が並べてあり,僕は何かに惹かれる様に一つの本棚へと近づいていった.


「な,なんだよ…こ,これ…!」

僕の喉から出る小さな悲鳴は視線の先にいるアレには聞かれなかった.
本棚の隙間から見える光景は僕の常識ではありえないものであり,すぐさま足を動かし逃げるべきなのだろう.しかし,僕の身体は目の前の光景から目が離せなかった.

この光景を一言で言うのなら,僕の幼馴染の少女の身体の中に中年の男が入り込んでいっている.

男の腕が彼女の胸の辺りにずぶずぶと泥の中に沈んでいく様に入っていっている.
最初は抵抗をしていた彼女だったが,男の手が触れた途端に気が抜けた様に遠くを見ている.


『た,助けないと』

そう心の中で思った僕の意志に反して僕の身体はぴくりとも動かなかった.
そんな僕を無視して男は全身を彼女の胸の中へと入れていく.
腕が入り,頭,胴体,足,彼女より大きい体格の男はまるで手品の様に彼女の中に入っていった.

男が消え見た目はいつもの少女に戻った彼女はふるりと震えると自分の手を開け閉めしている.

「…んっはぁー…ふへへ,やっぱり若い女の身体は良い匂いがするな」

にやにやと普段の彼女が浮かべないだろう笑みをした彼女は嬉しそうに,自分の身体を撫でまわし制服の中にこもっている自分の匂いを嗅いでいる.
彼女が頭を動かす度にヘアゴムで綺麗に纏められているポニーテールが跳ね,まるで一つの生物の様に艶やかな漆の様な黒い髪の毛は彼女の喜びを表していた.

「んっ?さっきから違和感を感じると思ったらこれか」

彼女はポニーテールの先端を指先で摘まむと顔の前に持っていき深く匂いを嗅いでいる.

「ふぅん…シャンプーの香りか知らんが女っていうのはどこもかしこも良い匂いがするなぁ」

満足したのかポニーテールから手を放し目を閉じた彼女は深呼吸の様な仕草をした.
そのまま数秒目を閉じた彼女はゆっくりと目を開く.

「…私の名前は杉山知佳.…へぇ,幼馴染の男子が居るのね」

落ち着いた普段の表情を浮かべた彼女は手慣れた動作で制服の中からケータイを取り出すとパスワードを難無く打ち込み,ケータイの中身を確かめている.

「ふーん…待ち合わせしてたんだ.変に思われるのも不味いしな」

にやりと笑った知佳がケータイを弄っていると僕の懐にあるケータイが音を鳴らす.
ケータイから流れる音が静かな図書室の中に響く.

「あっ…!」

慌てて手元のケータイの音を消そうとするが既に遅く,本棚の傍に立つ僕の前には幼馴染の知佳が立っていた.

「裕司君…迎えに来てくれたの?」
「ち,知佳ちゃん」

頬を少し赤く染め胸元に手を当てはにかんだ様に笑うその様子はいつも通りの僕の知る幼馴染だ.

「ご,ごめんね…本を返すので遅れて…」
「い,いや気にしてないよ」

慌てて謝っている知佳を見ていると先ほどの光景は白昼夢だったのだろう.
気を取り直した僕は知佳と一緒に帰り始めた.


「―そこで,孝彦の奴がさ」

今日あった出来事を知佳に話しながら家への道を歩いていく.知佳は僕の話に頷いたり,笑ったりと相槌を打っている.
並んで歩く姿はまるでカップルの様に見えているのだろうか.

「ゆ,裕司君…ちょっといい?」

そんな中不意に知佳が僕の耳元に口を近づける.密着した体勢になると知佳の暖かい体温と甘い匂い,そして柔らかな胸の感触が感じられた.

「ち,知佳ちゃん!?」
「……お前,見ただろ?」
「…え?」

戸惑いの声を上げる僕に知佳は底冷えのする様な声で囁いてくる.
ついさっきまで感じていた甘い感覚は消え,僕の脳裏には図書室で見た光景が思い出される.

「へへへ,こんな可愛らしい幼馴染と一緒なんて羨ましいねぇ…ちょっと隠れ家を探しててよ.前の家も良かったがもっと良い家を見つけてな」
「な,なん…」
「おっと,大きな声は出すなよ?お前の大好きな知佳ちゃんがどうなっちまうか…わかるよな?」

恐る恐る知佳の顔を覗くと図書室で見たあの知佳の表情と同じくにやにやと笑っている.
知佳?が語る内容を聞いて僕の脳裏には一つの予想が生まれた.

脱走した犯罪者…それが知佳の中に居るのだと…

「少しいいかな?」

足を止め見つめ合う僕たちに声をかけてきたのは青い制服を着た警察官だった.

「なんですか?」
「君たち…学校の帰りかな?ここら辺は危険だから直ぐに帰るようにね」
「はい,お巡りさんもお疲れ様です」

先ほどまで僕に向けていた冷たい表情は消え,可愛らしい笑みで受け答えをする知佳を警察官は怪しむことなく僕たちに注意をして去っていく.

「へへへ…サツも俺には気付かなかったな.まぁ…この可愛らしい知佳ちゃんの身体の中に男が隠れているとは誰も思わんだろうな」
「な,何が目的なんだ…は,早く知佳ちゃんの中から出ていけよ」

にやにやと笑い知佳の身体を撫でまわす男に僕は必死に問い詰める.

「おいおいさっき言っただろ?俺は隠れ家が欲しいんだ…だからお前が黙っていればいつか出ていってやるよ」
「ほ…本当だな」
「へへへ,分かったんなら……ねぇ,早く帰りましょ」
「ちょ,ちょっと!」

表情を途端に普段の表情に戻すと知佳は僕を置いてさっさと歩き始めた.

家の傍に来るまで何度か巡回している警察官とすれ違ったが,どの警察官も高校生の少女の中に犯罪者が隠れていることに気付くことはなかった.


「ここが私の家か.…ねぇ裕司君…今日ね私の両親帰ってこないんだ」
「な,なんだよ」
「へへへ,今日私の家に泊って行ってよ…断ったら…」
「わ,分かったよ!」

知佳の中に入った男に逆らったらどうなるか分からない.僕はこれから起きる出来事にどうしようもない不安を感じた.


僕の家は知佳の家の近所にある.僕は家に帰ると母親に今夜は友達の家に泊まると告げ,急いで準備を済ませ知佳の家へと向かった.

幼いころから知っている知佳の家はまるで別の家であるかの様に感じられ,僕は不安な気持ちの中呼び鈴を鳴らした.

「…よぉ,ちゃんと逃げ出さずに来たか」
「………」

玄関を開け,身を乗り出してきた知佳は着替えたのか可愛らしい私服姿へなっていた.
普段の彼女は露出の少ない控えめな服装だが,今の知佳は白いニットに丈の短い赤いミニスカート,黒いストッキングといった服装だ.

「そ,それは…」
「これか?知佳ちゃんってこういうのは好きじゃないみたいだが…せっかくいい身体をしてんのに勿体ないだろ?」

ミニスカートを持ち上げストッキングに包まれたパンティを僕に見せつけてくる.

「ちょ,ちょっと!」

僕は慌てて彼女を隠すように押し込むと久しぶりに知佳の家の中へと足を踏み入れた.

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続き楽しみにしてます!